逃がされた魚

大きくなりたい。

泣けばうたた寝

 道を、泣きながら歩いた。

 家までの道。空はまだ明るいのだけれど、住宅に囲まれた寂れた路地に日は差さなくて、隔離された薄暗さを漂わす。

 こんなことは日常で、ありきたりで、つまらないことだ。常に泣きたい気持ちを腹に抱えて生きているのだから、実際に泣いていようと泣いていまいと私には関係のないことだ。濡れたマスカラが私の顔を、遅れたハロウィンに仕立てることを除けば。

 何がそんなに悲しいのか。もう忘れてしまった。何がきっかけだかは覚えていない。ただ私の周りは悲しいことに溢れているのだ。例えば何だろう。会おうと思っていた友達が二日酔いで外出できなくなったり、コンビニで何か甘いものを買おうと思っても、私にとってそれが、そしてそれにとって私が、大事なものでない気がして、結局何も買わなかったり、それで昼ご飯も間食も摂ってないから痩せるかも、などと喜べなかったり。

 もう好きな人が欲しいとか愛してくれる人が欲しいとか、そういう浮ついた気持ちにもならないようだ。あの人じゃないと要らないし、あの人は私なんて要らないし、それならこちらも願い下げだし、他の人を好きになれそうにも、他の人から愛されそうにもない。

 人を愛していない生活を、三年間の間に忘れてしまった。帰り道や授業中やその他の時間、空っぽの頭を好きな人で埋めないで、どうやって時間が過ぎるのか。楽しい気分になりたいときに、好きな人でない何を思い出せば思わず笑ってしまえるのか。思い出せない。

 お腹が空いた。お腹の「空いてるよ!」というメッセージを聞き流してしまっているあたり、私は今幽が体を離脱中かもしれない。確かにふわふわして眠い。雪山にいるのかもしれない。寝たらもうおきれない気がする。寝不足なだけだった。

 今日はどうもいつも通り頭がおかしい。