逃がされた魚

大きくなりたい。

眠たい

    ああ、どうも疲れてしまった。

    感情の波を乗りこなせないで、ただ溺れそうになっている。

    別れて5ヶ月経った。5ヶ月よく生きてきたものだ。

    あの人は私の最愛の人で、生まれて初めての最初で最後の一世一代で、私の全てだった。そしてもういない。いない。

    彼のこと以外では、特に悲しいこともない。楽しいこともたまにあるけど、人生が楽しくなるわけじゃない。彼との過去が、彼に愛されない今が、今の私の全てだ。

    外に出れば、思い出の渦に飲まれる。一緒に食べたチェーン店なんて、日本中に溢れている。某うどんチェーン、私は大を彼は中を頼んで、店員は私に中を置いた。彼は私をさんざ馬鹿にして楽しそうだった。私も楽しかった。

 

    この間ラーメンを、食べた。視界が歪んで、彼の声が聞こえてきた。

「…美味しい?でしょ!美味しいとこいっぱい連れて行ってあげるね。」

「また替え玉頼むの!半玉にしておきなさい。」

「美味しかったね。またここ来ようね。」

彼の顔を見ていた。彼の顔は各場面で、楽しそうな顔になったり、意地悪そうな顔になったり、優しそうな顔になったりした。かつてそうであったように、ころころと表情を変えた。

    はっと我に帰ると、彼はいなくて、目の前のラーメンを見つめたまま、私はほとんど泣いていた。

    

    最近こんなことばかりだ。何かにつけて、妙にリアルな回想パートにトリップする。現実とのあまりに鋭すぎる対比でいつも心を抉られる。一緒に買った服、一緒に食べた店、彼の妹の学校、行きたかった場所、見たかった景色、手を繋ぎ歩く冬、着たかったドレス、欲しかった指輪、狭いアパートに一緒に住むという夢。見て、思い出して、泣く。単調な作業だ。

 

    なんかもう、このまま死んでもいい気がする。きっと私が見る走馬灯は、彼との楽しい思い出ばかりだ。そんな気持ちのまま死ねるなら、私の人生も悪くなかったと思えるかもしれない。

   

    そんなことを思いながら、今日も生きた。よく頑張った。眠たい。疲れた。