逃がされた魚

大きくなりたい。

心がやっと気づいて泣いた(夏バテ)

耳の奥に残ったまま出てこないプールの水

あなたの声や瞬きがあたしからずっと離れない

 

 こんばんは!夜名 七夕多(よな なゆた)です。

 この曲は初登場、aikoの「夏バテ」です。アルバム「恋をしたのは」に収録されています。

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 私実はこないだ、高校時代の友達と4時間ぶっ通しでaikoだけを歌い続けるほどaiko好きでして。

 でもなぜこれまで紹介してこなかったかって?それはねぇ、ずばり、悲しすぎるからです。

 クリープハイプやバックナンバーの曲はある程度客観的に、少し時間の経った失恋を歌っているような気がするのですが、aikoはどうにも、だめなんですよね。あの別れた直後の、絶望の淵に逆戻りしてしまうほど、感情をそのままに、隠さず歌っている感じなんですよ。

 プールの水みたいに、楽しかった時の残りが、もういらないのに残ってる。それを感じると必然的に、あの頃を、あの時の感情を思い出してしまう。

 

どうして台所へ来たのかぼーっとしてて覚えてない

効きの悪いクーラーと湿っぽいあたしが揺れている

 

 失恋の衝撃ってあまりにも大きすぎて、頭をぼかんって殴られたような、そんな感じで毎日を過ごしていました。思い出さないように、暑さに身を任せて、考えないように、考えないように…

 

思い出すの 綺麗に割れたあのグラスもう一度重ね合わせたら

何もなかったかのように戻れたらそれはそれでいいのに

 

 ここで泣き出してしまったんです。これをずっと願ってた。

 きっとまた戻れるんじゃないかって、あの時みたいに一緒に、なれるんじゃないかって、ずーっと信じてたんです。無理だっていうのも、きっとわかってたのに、それでもどこかで信じてた。また一緒に、あの時みたいに笑い合えるんじゃないかって、ずっと、思ってた。

 だってあんなに好きだったんだもん。愛してたんだもん。

 

優しくゆっくり締め付けた 心がやっと気づいて泣いた

あなたも同じように今少しでいいから思い出してほしい

 

 別れてからずっと頑張ってた。戻れるように、戻れるように、頑張ってた。またきっと戻れるからって、自分に言い聞かせてた。

 それがだめなんだってわかって、自分の気持ちを、見ないふりしました。別に大丈夫、もうあんたなんていなくて大丈夫だからって。

 でも、本当は、苦しかった。本当に終わったんだって、わかって、わからないようにして、逃げていたけど。悲しくて悲しくて苦しくて、そういう気持ちに向き合って、どうすればいいかわからなかった。もうずっと戻れないんだって、気づいて、心が気づいて、気づいたら泣いていた。

 せめてあなたも泣いていてほしい。もう戻れないとしても、少しでも懐かしくなって、寂しくなって、少しでもいいから、愛おしくなって泣いてほしい。もうこれが、私の最後の「好き」だ。

 

たまに赤く光る画面に目をやれどあなたじゃない

あの日見つけて引き留めた あたしが悪いのかあなたのせいか

 

椅子にかけたシャツにできた浅い皺をそのまま持って帰ったね

膝の横に置いた手の距離 数センチ長くて愛おしかった

 

 未だに、LINEの音が鳴ると、あの人じゃないかって思ったり。友人が、彼が私を呼んでいた呼び名を、LINEで送ってくるというたちの悪いいたずらをしてきたりします。そのたびに私は、まだ締め付ける、鼓動を速める、私を喜ばす心臓の音を感じて、悔しい。私を呼ぶその呼び名の後に何が続くのかと、心待ちに既読をつけていたあの頃が、やけに近くにあるようで。

 隣にいても、なかなか近づけなかった、愛おしすぎて触れられなかったあの手が、あの体が、いつか距離を失って、離れないでいれるんじゃないかなんて考えていた私を、思い出してしまう。この数センチは、今から埋めていくためののりしろだったのに、一生空白になってしまうなんてね。あの時埋めてなくしてしまえばよかったのかしらね。

 

冷たい床に口づけて季節はコスモス雪のマフラー

飲み込み吐き出したままのあなたの思い出どうしたらいい?

 

 怖い。楽しみにしていた夏が過ぎて、秋が来て冬が来て、夏を楽しみにしていたあの、初夏の私は、ずうっとあそこに置いてけぼりだ。あなたを好きだった頃の私と、何も変わらない私が、あの五月に、夏を心待ちにして、ずっと坐ってるんだ。

 季節だけが過ぎて、忘れないように思い出した思い出たちが、あの時のあなたの顔が、言葉が、腕が、身体が、未だに私を包み込んで締め付ける。こいつらを、どうすればいいの?私はどうやったらこいつらを、置き去りに前へ進めるの?

 

 ここ最近、彼をそんなに思い出さなくなった。愛おしいと思わなくなった。

 今日お酒を飲んで、行き場のない愛しさがあふれ出した。何か、わからなかった。ああそうか、私は忘れようとしていただけか。

 何も考えず、ただあの人を、抱きしめたいと思った。それができないことも、今は関係ない。抱きしめて、うんと泣きたい。あの人を愛したかったのだ。最後まで、愛していたかったのだ。

 彼の写真も手紙も、私を泣かせるほどの力を持たなくなった。私は、強くなったと思ったけれども。そんなものなくたって、簡単に思い出してしまえる。

 なあ、どうしたら忘れられる?どうしたら君のいない冬に、一人でちゃんと踏み出せるんだい?

 

この部屋にある全てがあたしが水をあげなくなったら

静かにさようなら 枯れていくんでしょう

 

優しくゆっくり締め付けた 心がやっと気づいて泣いた

あなたも同じように今少しでいいから思い出してほしい

 

 今彼の顔を、声を、匂いを、ほとんど思い出していないのに、こんなに泣いている。私には、彼を愛していることが大切だったのだ。彼を愛おしいと思っている気持ちが、大事だったのだ。

 その気持ちに水をあげなくなったら。ずうっとしまい込んで、いつか忘れてしまったら。きっとその気持ちは、存在していた証拠も残さず、何も告げず、消えていくんだ。それを望んでいるのに、それを怖がっている、悲しんでいる私もいる。私のカメラロールからは、まだ数十の彼が消えていない。それを撮った私の、その時の気持ちも、まだ消し切れていない。消してしまいたくないのだ。

  もう一生、一緒にいられないのなら、せめて一緒の思いを持っていてほしい。もうそれだけだよ。それだけでいいよ。最後のエゴだ。最後の「好き」だ。届かなくても言わせてくれよ、愛してる、愛してるよ。